私、SUNAが気ままに綴る、釣りコラムのコーナーです。
今回は、釣り人の分類についてのお話です。
はじめに
私は、釣り以外にも趣味が多いです。アウトドアでは登山もしますし、キャンプ道具も好きです。カメラ趣味もあります。
それぞれの趣味にコミュニティがあるのですが、業界まで含めて、釣りのコミュニティだけは異質だと感じています。
なぜそう感じるのか、理由を自分に尋ね続けていたのですが、ある時、そのヒントをアングラーとの世間話に見つけました。
その日、あるアングラーは、早く帰りたがっていたのです。
ふむ。釣りに来ているのに、早く帰りたい。
..それなら今日は釣りを始めなければよかったのでは?
もちろん理由があって、理解もできるものでした。ただ、私はそのような状況になることはなかったので、内心、これは話が合わないな、と感じました。
でも、すぐに思い当たったのは、登山でも同じようなことがあるということ。ただし、登山の場合は、身に付けている装備品や山中での出会った場所により、相手が何者なのか、その人が山にいる目的を推察できます。だから話が合わないまま会話を続けるということは、お互いに起きないものです。
ところがアングラーは、特にソルトアングラーとなると、一見しただけでは目的を想像し難く、相手も自分と同じアングラーだと思い込んでしまいやすいのです。
これは大きな気づきでした。
釣りの目的が異なれば、釣りの体験も異なって当然です。このことを考慮しなければ、チグハグなアドバイスになったり、ひどければ論争にもなります。メーカーにしてみれば製品開発にも関わってくる大問題でしょう。
私がお話しする釣り人の分類は、そのような齟齬を減らすためのものです。
自らがどのようなタイプのアングラーかを知り、また相手がどのようなタイプかを察することができれば、釣りはもっと楽しいものになると思います。また、製品選びにおいても、メーカーが(テスターが)どのようなタイプの人向けに作ったものか判断できるようになるため、自分の性分に合った道具選びができるようになります。
興味が湧きましたら、ぜひ最後までお付き合いください。
オーリー:釣りは遊び
最初に説明するのはオーリータイプ。釣りは遊びであると認識しているタイプのアングラーを指します。ちなみにオーリーという名称はこの説明のための設定なので実在の人物とは関係ありません(オーリーとはオリバーちゃんの意)。
オーリーが釣りに求めているのは楽しさです。魚を釣ることはもちろん、釣り行為そのものを楽しみたいタイプです。メジャーな釣種・釣法が好きで、他のアングラーとの交流も好みます。
オーリーは、楽しさに水を差されることを特に嫌います。悪天候、他のアングラーとのトラブル、またはベイトリールのバックラッシュなどもオーリーが釣りをやめる要因といえます。
サンティアゴ:Catch and Cook
名称は小説「老人と海」の年老いた漁夫の名前から。すなわち、サンティアゴタイプとは、漁師のように魚を獲ることにフォーカスしているアングラーのこと。
サンティアゴは魚を獲った後に、それを調理して食べるところまでが釣りの体験です。お楽しみは魚を獲らなければ始まらないので釣果第一主義になりやすいです。場所や時期・時間帯に合わせて、釣れる可能性が高い釣種を狙う傾向があります。
サンティアゴの釣り行為は、報酬(魚)を得るための代償(釣り)という関係性にあるため、なるべく労力やお金をかけずに充分な数の魚や高級魚を獲得できたときに喜びが大きくなります。
ケビン:スポーツマン
米国バス界のレジェンドであるケヴィン・ヴァンダムから名を借りて、ケビンとはスポーツフィッシングとして釣りをしているアングラーを指します。
典型的には、大会に向けて練習に励むアングラー像が浮かびますが、大会のない釣種であってもスポーツとして打ち込んでいるなら該当します。
ケビンの喜びは、釣りの上達にあります。釣果を望めないような難しい日も、ケビンにとっては絶好の練習日和。むしろ難しい日に釣ってこそ価値があるというものです。
大会のない釣種では記録更新を目指すことが楽しみとなり、ランカー狙いに固執することもあります。
ジミー:旅行者
太平洋を旅してオーストラリアを発見したジェームズ・クックにちなんで、旅行するアングラーをジミーと呼ぶことにします。(偶然の一致ですがジムこと村田基さんも世界中を巡ってますね。)
ジミーの釣りはコンクエストです。北海道でイトウ.. クリア! 宮崎県でアカメ.. クリア! 各地の名高い魚を釣っていくことは旅先での記念品集めに相当します。
ジミーは自らをワクワクさせてくれる魚との出会いを望んでいますから、次なる新しい魚を求めてオフショアや海外釣行へ意識が向かうのは自然な欲求となります。なお、各地で同じ魚種を狙うタイプのジミーもいます。
誰でも複数のタイプを帯びる
4つのタイプを紹介しました。誤解して欲しくないのは、全てのアングラーを4つに分類するものではないということ。現実には組み合わせと割合を考えて説明するものとなります。
一例として、およそ全てのアングラーは、初心者の頃は釣りを遊びとして楽しむオーリーだったはずです。しかし、経験を積むにつれて満足感が薄れてくるものです。そこで遊びが深化していく過程で、サンティアゴやケビン、ジミーといった性質を帯びるようになると考えます。
私が冒頭で取り上げたアングラーは(早く帰りたいアングラーは)、オーリーの性質を著しく欠いたサンティアゴでした。その人にとって釣りは面倒な作業でしかなかったのです。
とはいえ、個人のタイプは時と場合により変化することも理解しておくべきです。
他の例として、バスのトーナメントプロがあります。当然ながら試合中はケビンの性質を強めるはずですが、オフで気分転換を目的とした場合にはオーリーやジミーでもある状態に変化することもあるでしょう。
このようにして、4つのタイプは同時に存在することもあるし、それらの割合が変化するものなのです。
タイプの偏りはトラブルの元
4つのタイプには、その考えが極端になると対立を生み出してしまう側面があります。
例えば、釣りの上達を志向するケビンから他のタイプをみれば、オーリーは釣りが下手、サンティアゴは向上心がない、ジミーは浮気性にみえます。
しかし、オーリーは心の余裕があるからアクシデントも友人と笑って楽しめるのであり、サンティアゴは最大公約数的な手法で釣るのが最適戦略、ジミーはワクワク感を保つために同じ体験を反復しないことが正解です。ケビンは他のタイプに対して「もっと練習すべき」と言うかもしれませんが、そのアドバイスは的外れなのです。
以上のことは思考の偏りでしたが、そのほかに人数の偏りも問題となることがあります。
バスのアングラーはケビン的な人が多く、ソルトアングラーはサンティアゴ的な人が多いと思います。ケビンとサンティアゴは競争的な側面を持ち、釣りのコツを秘密にする傾向があります。それゆえに他のアングラーも本音を明かさないものと思い込んでいます。
そこで釣りのコミュニティでは情報の触れ込みとして「忖度なし」「本当は教えたくない」「○○で爆釣」のような見出しが付けられることになります。いずれもコミュニティにおける他者への信用度が低いからこそ用いられるフレーズです。このような現象は他のジャンルの趣味においては滅多に見かけません。
自分を満足させる釣りを知ろう
最後は私自身を例にとってお話しします。
私は「オーリー/ケビン」タイプのアングラーです。基本的には日常の遊びとして釣りをしており、釣りの上達も楽しみとして取り組んでいます。それでも、時には食べることを目的に釣りをしますし、毎年一度は旅行先での釣りのために計画を練ることもします。その時々でバランスが変化します。
時間軸を観点にとると、オーリーとジミーは両極端な性質を持ちます。オーリーは最もコンスタントに楽しみを欲しがっており、ジミーは1年に1回の楽しみさえ待つことができるからです。
私のオーリー的な側面は、エリアトラウトやアジングが自分に向いていることを示唆します。幸いにも、私はこの欲求の満たし方をライトロックゲームに見つけています。
ライトロックゲームは、私のケビン的な側面を満足させる釣りでもありました。一般的には簡単な釣りと認識されていますが、実は時合いを待つことなく通年で釣ろうとすると、極めて積極的なアプローチが必要になります。バスフィッシングさながらの面白さがあるのです。
また、サーフゲームは私の本懐ですが、余暇時間や体力への要求度が高いことがネックになっています。ケビン的な側面においてストイックになることで対応しているものの、身体の痛みは誤魔化せません。そのようなストイックさは私のオーリー的な側面と自己矛盾しています。
私がより楽しくサーフゲームをこなすには、準備と撤収作業の省力化、タックルの見直しが有効と言えそうです。それらはサンティアゴやジミーが得意としているので、私は他のアングラーから学ぶことで解決すると思っています。
おわりに
今回のお話は、ある釣果優先型のアングラーについて私が「あぁ、山で会う山菜採りの人と同じか」と思ったことから発想を広げてあります。
山菜採りの人は登山者と認識されませんし、普通は山頂で会うこともない人たちです。けれど、アングラーは同じ釣り場で同じ魚を狙っていることさえあるため、とにかく混同しがちです。アングラー自身ですら自らの立場が不明瞭な気がします。
私が挙げた典型例に自らを当てはめる必要はありません。ただ、自分と異なるアングラーがいることを面白く思っていただけたら幸いです。