書籍「シーバスビッグベイトの魔力」のインプレ(読書感想文)

2022年に本腰を入れて釣りを再開してみると、せっかくだから新しい釣りをしてみたいという気持ちになる。20年以上に及ぶブランクのうちにはエリアトラウトとショアジギングを嗜んだ時期もあったが、それらはワンシーズンの気分転換に過ぎなかった。今期はその頃とは異なり、熱がこもっている。すでに(私にとっての)新しい釣りとしてフィネスという方向性も楽しんではいるが、これはフライフィッシングを経験した身からすれば十分にウェイトがあるので驚きはなかった。すると、むしろ経験したことがないような重いルアーに興味が向いてきた。ビッグベイトである。

今回はインプレというか読書感想文である。ビッグベイトに関心が向いたが、ネット上では情報が少なく、書籍も少ない。その中で、どうせ読むのなら発行年が新しい書籍ということで「シーバスビッグベイトの魔力」を読んでみた。著者は衣川真吾氏。ビッグベイトシーバス界のパイオニアである。


ビッグベイトシーバスというアート

忌憚なく言えば、これは私が求めている本ではなかった。この本は、衣川氏とシーバスとの出会いに端を発して、その後のビッグベイトと歩んだ挑戦の歴史を綴ったもの、という印象を受けた。随所にビッグベイトで釣ることの哲学が語られており、感覚的、精神的な内容が多くある。文章も初心者向けのインストラクションを意識した構成にはなっていない。これは衣川氏のアートなのだ。

片や、私が期待していたものは、ルアーの使用順序やアクションの順序といった戦略、それからタックルバランスといった知識だった。システマチックな内容を期待していたことに気づくことができたというのが一番の収穫だったかもしれない。

このような書き手と読み手のすれ違いは仕方がないことである。書き手は読み手を選べない。また、読み手のほうも電子書籍の試し読みによる冒頭数ページではあらすじがわからなかった。だから今回は、そもそも読み手が本のセレクトを誤ったという前提で感想を述べるので、私が解釈を間違えていることは大いにあり得る。この感想を鵜呑みにしないでいただきたいし、また、関係諸氏は気を悪くしないでいただきたい。

年表が欲しかった

この本の最大の注目は、数々のビッグベイトの写真であろう。大変に目を惹くもので、少年時代のワクワク感がよみがえってくるようだった。しかし、ページの構成には物足りなさもあった。何が足りないのかを自分なりに考えてみたところ、ビッグベイトの詳細情報や並び順によるところの情報の少なさが原因であるように感じた。

写真を見て、これいいな、と思ったビッグベイトの説明文を読むと、日本の店頭にないものだったり、すでに販売されていないと思われるものだったりして、失望させられるのである。これは本の構成がよろしくないと思う。私のような初心者目線では、あの衣川氏がランカーを釣ったのと同じビッグベイトを自分も使っているんだ、という気持ちが大切であるからだ。

個人的な考えだが、まず年表にまとめられていたら良かったと思う。ビッグベイトの発売年を基準にすれば入手性がわかりやすくなる。あるいは、著者が入手した年を基準にすれば自伝的内容と一致して読みやすい。

この本は、すでにビッグベイトを10個くらいは持っている人なら楽しく読み進められると思う。予備知識のない初心者にはイメージのつかない話が出てくる。

ラインが太い

著者の特徴的な考えとして、極めてラインが太いことが深く印象に残った。2oz(56g)のビッグベイトを基準にした時、PEラインは最低でも4号だという。ターゲットはシーバスなのに、である。

ショアジギングではブリで3号が目安である。カンパチやヒラマサといったショアの王者を獲るとなって4号以上を考えるようになる。ショアジギングは、ジグならジャークしまくり、プラグならドッグウォークしまくるという、ラインにとってもタフな釣りである。したがって、ビッグベイトに4号以上が必要という記述は腑に落ちないものである。

読み手の解釈によってしまうが、著者がラインを太くする理由は3つ読み取ることができる。なお、これには著者出演の映像コンテンツ(YouTube)からも補足情報を得ている。

  • ベイトリール特有のバックラッシュによる高切れ防止
  • スプールへのラインの食い込み防止
  • キャスト時の擦れによるライン損耗防止

少し噛み砕いて1つずつ見ていこう。

バックラッシュによる高切れ防止

まず、バックラッシュ時の高切れについては、習熟によってバックラッシュ自体を防げることから、著者もあまり重要視していないように見受けられる。これは私も同感である。バックラッシュには予兆があって、回転するスプールからラインが浮いてくるので、親指でラインの浮きを感じ取り、サミングで回転速度を落とすことでバックラッシュを防ぐことができる。予兆を感じられないとすれば、それは小径かつ軽量スプールで速度変化が大きすぎるためか、すでにラインが食い込んでいたかのどちらかかと思う。

ラインの食い込み防止

そのラインの食い込みだが、根本的な原因はラインテンションが弱い状態で巻き取ることにある。著者はトップウォーターの釣りを展開するのでラインテンションが弱いことは私も想像できる。レベルワインダーの移動が多いリール、いわゆるクロス巻きのリールならば食い込みは起きにくいが、飛距離が犠牲になる傾向があるため一長一短だ。しかし、ラインが太くなることでも飛距離は低下するので、これだけでは話の辻褄が合わない。

ラインの食い込みを防止するためには、ラインスラックを必要とするルアーを使わないという方法もある。クランクベイトに代表されるリップ付きルアーやプロップベイトのように巻いて使うルアーに限定すればラインテンションが緩むことはなく、食い込みからのバックラッシュも起きない道理である。

ライン損耗防止

3つ目のライン損耗は隠れたリスクだろう。私はショアジギングをしていて気づいたが、ブラックバスやシーバスの釣りでは経験しない事柄である。PEラインの耐摩耗性というのは、日本ではあまりフォーカスされていない状況に見える。日本の常識としてPEラインは耐摩耗性が低いと言われており、そのためフロロカーボンのリーダーを接続するのがスタンダードであるかのようだ。

しかし、ラインの耐摩耗性をテストしてみると、意識して努力しているメーカーと、対策を放棄しているメーカーがあるとわかる。キャスティングの負荷が大きな釣りでは、耐摩耗性に優れたPEラインを選ばないとトップガイドとの摩擦によって意外なほど早いタイミングでラインが損耗し、キャスト時に切れてしまう。

トップガイドとの摩擦については、著者がキャスティングする様子を映像で見るとわかりやすい。キャスティングが非常に鋭く、これでは切れてしまうな、と思った。ロッドが短いので振り抜きが速い。しかも、ビッグベイト用の硬いロッドなので、トップガイドとラインには相当な負荷がかかっているだろう。

ショアジギングやサーフキャスティングでは、ロングロッドを用いたペンデュラムキャストが基本であるかと思う。この方法の要点は、回転半径を長くして遠心力を用いてルアーに運動エネルギーを与えることにある。また、ベイトショアジギングではスピニングタックルよりもロングリーダーによるトラブルが起きにくいので、キャスト開始時の摩擦をリーダーに引き受けてもらうという方法もある。

タックルバランスは奥が深い

あくまで私の解釈になるが、ルアーをアクションさせるためにショートロッドを使いたいが、ショートロッドでは高負荷なキャストを行わねばならずラインが損耗する。そこで太いラインを用いる。だが、ラインが太くなることでアクションも飛距離も損なわれる。すると… どうも悪循環なような気がしてしまう。

ショアジギングで60g〜100gといったルアーを用いる場合、PEラインは2号〜3号である。私としては、そのくらいの号数でどうやったらラインを痛めずに使用できるかを考えたい。ロングロッドでもリーリングジャークならアクションは起こせるので、ビッグベイトシーバスでも同じことができるのではないかと思う。河川や港湾で取り回しが悪いことが問題にはなるが。

また、ラインの太さはリールのサイズにも関わってくる。著者のスタイルとして、ライントラブルが起きた場合には、ラインを切り捨てて釣りを続行するという考えがあり、そのためにもラインキャパシティが重要視される。これにはかなり大型のリールが必要となる。しかし、ラインを切り捨てて使用した場合、スプールが痩せた状態になってしまうため、キャストフィールや飛距離が変わってしまう。

スプール痩せを嫌って、予めラインを巻いておいたスプールを用意しておいて、スプールを丸ごと交換する方法もある。こちらの方法はワンキャスト分のラインさえあれば良いので、スプール径や深さに対する計算は楽である。切り捨てて続行する場合でも、休憩時や帰宅後に残りのラインを廃棄して、新しいラインに巻き換えなければならない。そうしなければ次の釣行に差し障るからだ。ならば結局は替えスプールで対応する方が良いような気がする。スプール交換はベイトリールの特権でもあると思う。(スピニングはスプールの工作精度の差をワッシャーで微調整するから大変。)

それから、著者のように1日中キャストしていられるかどうかも考慮に含めるべきと思う。体力的にというのもそうだが、家庭を持つ大人が、たまの休日をすべて自分の趣味に費やすことが許されるのかという問題もある。私の場合は長い時でも3時間だ。大きなトラブルが起きたら、釣りの続行は考えずに道具のメンテナンスに充てている。だから、続行不能について考える意味があまりない。むしろ、数時間保てればいいという考えにおいては、ピーキーなラインシステムを運用することもできる。例えば、スペーサーラインシステムのような、いずれは確実にトラブルが起きるシステムでも適度な使用時間に留めて帰宅することになり、就寝前に組み直すことで恒常的に運用できる。(面倒なので近頃はしていないが。)

おわりに

感想文としながらも一部に終始しつつ、脱線もした。本の内容のネタバレになっても悪いから書きにくかったというのもある。初めに述べたが、あまり初心者向けではないので、ワンシーズン通してビッグベイトをやって、それから読むと良いのではないか。そうすればロマンを掻き立てられる良い本として受け入れられると思う。私にはまだ早かったというだけだ。

ちなみにタブレット端末よりも紙の本のほうが面積が大きいので読みやすいかと思う。この本は紙の書籍として制作されているので、やはり紙のまま読むほうが良さそうである。

ザッと読んだだけで感想文を書いたので、その点はご理解いただきたい。実釣の経験を積んで、本のほうも繰り返し読み込んでいくと印象が変わってくると思う。ビッグベイトの名前やメーカー、特に実際の泳ぎをイメージできていれば楽しく読めるだろう。まだまだ黎明期の釣りであり、パイオニアたる衣川氏による文章ということで、読む価値のある本なのは間違いない。ロマン、哲学、モチベーションといったワードが琴線に触れる方にはおすすめである。