11月10日(木)大潮4日目。未明は下げ潮。気温9℃、水温19℃。追い風3m。波高は0.4mとのことだが、離岸堤があるためか0.2mほどにしか見えない。凪の海面に満月が輝いている。
今日はミノーで手前を探りながら歩くつもりだった。潮位が高いうちなら大型のフィッシュイーターが寄っているかもしれないとの期待だ。適水温からするとフラットフィッシュかシーバスか。月明かりを頼りにミノーのシルエットを海中に落としたら反応があるかもしれないと思っていた。
しかし、眼前に海況を捉えるとシーバスへの期待感は薄らいだ。海が落ち着きすぎていると感じた。どうするか。大型のフィッシュイーターが寄っているとの想定だからこそ10cm以上のミノーでアピールしていくつもりだった。大型がいないかもしれない状況でシルエットが大きすぎるルアーを投げ続けて、何の反応を得られないまま釣行を終えてしまったら… ここ半月ほど気落ちして帰ることが続いておりモチベーションの危機であった。今日は1週間ぶりに出てきたのだ。釣れなくてもいいから気分良く帰ることが重要だった。そうでなければサーフでの釣りをやめてしまうかもとさえ感じていた。
ファーストチョイスはジークのSビット15g、ゼブラグローグリーンゴールド。夜明けまで1時間以上あるためグロー系から選んだ。ジークのルアーは欲張りなカラーリングである。だが数投した後、今日、私が投げたいルアーはこれじゃないなと思った。Sビットは前回も投げたばかりであり、今日は何か新しい体験が欲しかった。15gはロッドパワーとの対応で着底がわかりにくい。精神衛生上、今日はもっと重いジグのほうが良いと思った。
セカンドチョイスはアブガルシアのショアスキッドジグ20g、シルバーメッキ。極めてシンプルなカラーは古の“スプーン”(食器のスプーンで魚を釣ったという逸話)を彷彿とさせる。シルバーこそ万能カラーだ。グローはないが月明かりが強いから十分だろう。また、スキッドジグはイカを模したものだと読んだ気がする。凪ならばイカが接岸しているかもしれないからマッチザベイトを期待した。
キャストしてワンピッチジャークを基本にしつつ寄せてくる。グングン、ブルッ。ジグの動きを感じる。繰り返し、繰り返し。そのような長い間があってからジグのテンションが抜ける。ようやく砂浜に乗り上げたのだ。意外と遠くまで飛んでいる。ティンセルが付いているが飛距離は十分なようだった。いつもなら飛距離を気にするが、今はまだ測ることはせずにロッドワークを楽しんだ。釣行の終わりに確かめたら80m以上は飛んでいるようだった。
場所を移動しつつキャストを繰り返す。ジャークして、巻いて、ジャークして、テンションが抜ける。ジグが砂浜に着いたのだろう。だが今回は少し変だ。ジグの重さを感じようとしてラインを巻いてからロッドを煽る。しかし、ラインは水中にあると知らせてくる。それでもジグの感触がない。さらに糸の緩みを巻き取って再びロッドを振り上げる。重い。動かない。海藻に根掛かりしたような感触だと思った直後、グッと引っ張り返してきた。
魚だ!
後でわかることだが、すでに波打ち際まで来ていると勘違いしている私はフッキングよりもテンションを保つことを選んだ。ドラグを出しながら沖に走らせて、ファイト中にフッキングを決めればよいと考えた。勘違いはもう1つあって、ドラグは締めてあったのでラインは出ない状態だった。
私が魚に気付いてから1秒に満たない一瞬だった。ズルッとテンションが抜けた。FGノットがやられたと思った。あー、悔しい。ロッドが弓なりに曲がったわけでなく、バットに重さがかかった程度だった。引き合う前に決着してしまった。
せめてヒットした距離を知るためにカウントしながら巻き取った。すると、ないはずのFGノットが来た。ということはリーダーが切られたか。ロッドを立てすぎて歯に当たってしまったか。でも変だな。ブツっと切れる感触じゃなかった。ズルッと、間のある抜け方だった。リーダーの先端はパロマーノットだから、ラインが負けるとしたらFGノットのほうじゃないか? そんな疑問を持ちつつも、残りのリーダーを巻き取って謎が解けた。
スナップが壊れている!
魚に引っ張られてスナップが壊れるなんてことがあるだろうか。もちろん大型魚を釣るようなシーンならばあり得るだろうが、私のタックルバランスでスナップがウィークポイントになるとは考えにくい。今日はPEラインが0.6号、リーダーが12lb、それゆえFGノットがウィークポイントになり推定で4kgほどしか耐えない。スナップは14kgまで耐えるものだったと思う。ラインが切れるよりも先にスナップが壊れるなど信じられなかった。しかし事実だ。
どんな魚ならこの所業が可能だろうか。ブレイク直後は(ラインブレイクだと思っていたので)ヒラメかアカエイだと考えていた。バイト後に動かなかったからだ。また、重すぎて動かせなかったとも言える。低生魚で、水底にベッタリと張り付くタイプだと考えた。しかし、どれほどの大物が掛かったとしてもスナップが壊れるよりもラインが切れるほうが現実的に思えた。
壊れたスナップをよく観察すると、ただ伸ばされたのではないと気付いた。開閉させることのない短いループのほうが破断している上に、不自然に外側へ曲がってしまっている。引っ張られて破断するところまでは理解できるが、外側に曲がるのは力のベクトル的におかしい。これは… 噛み砕かれたのか?
スナップを噛み砕く。この海域でそんなことができそうな魚は… クロダイ。甲殻類のみならず貝類を捕食する魚なら可能な気がする。私などは卵の殻の欠片を噛むだけで嫌だが、日頃からその数倍以上の厚さの貝殻を砕いているタイの仲間にしてみればスナップの針金などはグミのようなものかもしれない。
波打ち際を見渡せば貝殻が散乱している。その多くは2cm〜3cmの二枚貝だ。カニやフグに捕食されているものと考えていたが、中には5cm以上のザルガイに似た頑強な貝殻もあり、易々とカニに食べられてしまうとは思えない。だが、タイの仲間が捕食のためにサーフにやってくるのだとしたら辻褄が合うような気がした。
興奮冷めやらぬ中、ショアスキッドジグ20gのゴールドメッキを代わりに取り出した。スナップはもうない。そもそも今日はスナップを忘れて来ていて、ゲームベストの中を漁ったら件のスナップが1個だけ出てきたのだ。仕方がないのでメインラインに残っていたリーダーへ直接パロマーノットで繋いだ。もしもFGノットがブレイクしていたら厄介だった。リーダーが残っていたのは幸いだったと言える。その後、明るくなってもアタリはなかったが、まさかの大物との遭遇に気分は高まった。
久しぶりに有意義な釣行だったと思う。