ヒラメのジャイアントキリング

2022年10月初旬、ある日の未明。初めてマゴチを釣った日から3週間ほど経っていた。ここまで何とか気持ちを保って続けてきたが、そろそろ限界を感じていた。フラットフィッシュ用のソフトルアーはすでに使った。キャロライナリグは最初に試した。ボウズ逃れという餌釣り仕掛けまで投げてなおボウズだった。

ここまでにチャンスはあった。サバのようなシルエットの魚が水面をジャンプしていた日が3回。マゴチと思われるアタリをバラしてしまった日が1回。釣れない日々が続くと自分の判断を信じられなくなってくるが、そこに確かに魚がいたということに安堵して、またしばらくは頑張れる。釣れずに残念という気持ちはあまりない。ただ、私はまだ釣りが下手なのだ。


初めてブラックバスを釣った時のことを思い出していた。釣果を上げたのはプラスチックでできたプラグと呼ばれるタイプのルアーだった。それ以降を振り返ってみると、私にはルアーの得手不得手があると気づく。スプーンやスピナーなどのメタルルアー、ワームに代表されるソフトルアー、これらでの釣果が少ないのだ。使用頻度によるバイアスがあるとは思う。それでも、プラグは釣れると思い込み、プラグを使ってきた年月の分だけ、他のルアーよりも扱いに慣れているのだと思えた。ルアーの基本はベイトを演じることだと思う。ライン1本で繋がれたマリオネットなのだ。目に見えぬ水中を、わずかな振動を頼りに想像し、役を演じるのだ。この感覚はプラグでなければ味わいにくい。


その時は突然やってきた。ラインは20m以内まで寄せていたと思う。アタリを感じてフッキング。大きくはない。けれど、間違いなく魚だと確信できる感触だった。嬉しかった。

ヒラメの幼魚だった。こんなに小さくてもソゲと呼ぶのだろうか? 海の魚は大きさで呼び名が変化する。私はいまいち覚えることができない。

フックを外すときに感心したというか、奇跡に思えたのは、こんなに小さなヒラメなのにトレブルフックの一鉤をピッタリ咥え込んでいたことだった。少しでもズレていればフッキングできなかったと思う。ずっと以前、似たようなことがあった。メタルジグに対して、それよりも小さなシタビラメの幼魚が喰ってきたのだ。もしかしたらヒラメの仲間はベイトを齧りとったり、ダメージを与えて弱らせるような狩りをするのかもしれない。食べるというよりは、まず仕留める。観賞魚を飼っているときにも、そういう生態は見たことがある。海の魚は攻撃性の高いものが多く、有利な状況下では自分より大きい魚にも突っかかっていく。ヒットアンドアウェイで相手を弱らせていくのだ。そして私はこのとき、弱った魚を演じていた。

狙いがハマったような気がして、少し調子に乗って釣りを続けたが、その後はアタリもなく納竿の時刻となった。それでも気分は良かった。