長らく実家に置きっぱなしだったタックルを今の住まいへ送ってもらった。ショアジギング用のスピニングタックルだ。実は一度だけソルトウォーターにトライしてみたことがあったのだが、三度ほど海へ出かけてみるも面白みがわからずにやめてしまった。今、改めて海と向き合ってみて、これからソルトウォーターゲームに興じるために自分に不足しているのは飛距離だと感じた。沖のポイントまでルアーが届くかどうかは大きな課題だった。それに、釣れなくとも楽しいかどうかは、もっと大きな問題だ。私の心の健康のためには、水平線へ向かってルアーをかっ飛ばす必要があった。
毎朝4時に起きて、日が昇る前に海へ出た。朝練をするのは学生時代以来だ。私はスピニングタックルに慣れるためにキャスティングを繰り返した。よく言われていることに、スピニングタックルは初心者向けという位置付けがある。私はそれはウソだと思っている。確かに、ベイトタックルがバックラッシュするような難しさはない。しかし、スピニングタックルはラインが徐々に捻れてしまうし、手元のたるみに気づかずにキャストして高切れを起こすこともある。何よりも、狙ったところへルアーを投げるのが難しい。タックルの重心がロッドから離れていることも気になった。一つひとつ慣れていくしかなかった。
そうこうしているうちにロッドのガイドが壊れてしまった。長らく放ったらかしにしていたロッドは、ガイドの足が錆びて脆くなっていたのだ。どうせ練習だからと、補修しながらしばらく使っていた。だが、ライントラブルを頻発してしまい、このままではラインもダメにしてしまうことからロッドを新調することを決めた。こうなるともうおしまいである。妻に内緒でタックルを整えた。せめて釣果を上げて報いなければならない。
飛距離を測るにはいくつか方法がある。私がとった方法はGoogleマップで衛星写真から距離を求めることだった。波打ち際から90mも飛ばせば沖合いの波消しブロックに当たる可能性があるとわかった。そして、3週間の特訓によりメタルジグを80mは飛ばせるようになったと見えた。とはいえ、メーカー曰く100mも飛ぶ商品だそうだから、まだまだ先は長い。しばらくは波の音に心洗われる日々が続いた。