2022年9月。ナマズのような魚が釣れた。いや、たしかマゴチという魚だ。釣具店の掲示板で写真を見たことがあった気がする。大きさは40cm弱といったところか。のっぺりとした体つき。よく見ると体の半分近くが顔であるかのようだ。フックを外したいが、何かが釣れるとは思っていなかったからプライヤーがない。必然、素手が魚に触れる。意外なほどに硬い。観賞魚でいうとロリカリアやプレコに近いのかもしれない。魚は引き波とともに海へ帰っていった。
釣りをするのは20年ぶりだった。知識が欠けていた理由は久しく忘れていたというだけでなく、海釣りの経験がほとんどないことによる。私がしてきた釣りというのは、ブラックバスをルアーで誘うか、イワナなどのトラウトを相手にフライフィッシングに興じるというものだった。今になってソルトウォーターに手を出した理由は単純だ。今の自分の暮らしにとって最も身近な水辺が「海」になったからだった。
初めてのマゴチとのファイトは白熱した。プラスチック製のスピニングリールがキリキリとけたたましく鳴き、グラスファイバー製のルアーロッドは薄暮れの空に三日月よりも鋭い弧を描いた。魚が暴れる様子がブルブルと手元に伝わってきた。魚を寄せるどころか、どんどんと離れていっているようだった。途中でドラグを締めるが、ナイロンライン2号というのはどの程度の強度なのか忘れており思い切ったことができない。焦るな。焦ってはいけない。どんな魚もスタミナは無限ではない、必ず疲れてくる。ラインのテンションを保つことに集中した。気をつけるべきは魚がこちらに向かって走ってくるときだけだ。
どれほどの時間が流れただろうか。ついに魚の姿をこの目で見た。
この時のタックルは全てダイソーで買ったものだった。ルアーに至っては、ルアーですらない。エサ釣り用のブラクリという仕掛けだ。本来はテトラポットの隙間などに落とし込むようにして使うものらしいのだが、ジグヘッドみたいなものだろうとキャストした。一応、ブラクリには集魚用にカットよっちゃんを刺しておいた。身近な海水浴場でもフグくらいいるだろうとの考えで、実際にフグと思しき噛み跡を確認できた。何であれ釣れれば楽しい。だが、エサに食いつくのを待っているだけというのは退屈だ。結局、かつてのルアーマンの性と言うべきか、ブラクリをアクションさせながらリールを巻いていた。マゴチを釣り上げた時、カットよっちゃんはフグにでも盗み取られた後であるようだった。
やはり、釣りというものは良い息抜きになる。この日以来、再び釣りをするようになった。あまり体験したことのないソルトウォーターの釣りは、懐かしさと新鮮さに満ちていた。もう少し手応えを感じたら日誌でもつけようと思った。そして、このブログが始まることになる。ソルトウォーターは初心者であるから玄人の役には立たないであろうが、どなたでも海に出れない日の読み物として楽しんでいただけたら幸いである。